X833.槍・穂高縦走3日目

(3日目:槍ヶ岳山荘−大喰岳−中岳 −南岳−大キレット−北穂高小屋)
今日はいよいよ大キレットを通過する。槍ヶ岳山荘を出発して、大喰岳、中岳、南岳を越えて大キレットを下り、長谷川ピークの難所を通過して北穂高小屋への岩場を登り返す。

8月29日(日)
槍ヶ岳山荘 6:20 ---- 6:45 大喰岳 6:50 ---- 7:30 中岳 7:35 ---- 8:25 天狗原分岐 8:35 ---- 8:55 南岳 9:00 ---- 9:35 南岳小屋 10:00 ---- 10:50 コル 10:55 ---- 11:50 長谷川ピーク 12:00--- 12:30 A沢のコル 13:00 ---- 14:15 滝谷展望台 ---- 14:50 北穂高小屋 15:35 ---- 15:40 北穂高岳 15:50 ---- 15:55 北穂高小屋(泊)

朝起きると天空は晴れ渡っていて、表銀座も八ケ岳も見えており、南アルプスの左に富士山も見えていた。一番目の5時からの朝食を大急ぎで頂いて、丁度日の出に間に合わせて前庭に飛び出してパノラマの写真撮りに精出した。
(日の出)
(富士山が見えた!)

身支度をして前庭に出て、朝日を受けて明るくなったパノラマを眺めながら、先月歩いた黒部五郎から笠ヶ岳までの長かった歩行ルートを思い出しながら語り合った。歩いた道を覚えているうちに眺めるのは嬉しいものだ。

しっかりと準備運動をして、歩き始めたのは6時20分になっていた。ガラガラの道をゆっくりと下って行った。
(朝日を受けて準備運動)
(いよいよ出発)

下り切った鞍部が飛騨乗越で標高3000mを越える日本一高い峠だと言う。大喰岳へは石が積み重なった道を登り返す。トウヤクリンドウが励ましてくれる。
(日本一高い飛騨乗越)
(大喰岳へ登り返し)

大喰岳からの展望は素晴らしかった。格好の良い槍ヶ岳がすぐ近くに見え、これから向かう中岳、右の笠ヶ岳も近くなった。展望を楽しみながら少し休んだ。
中岳に向かう道もガラガラだがなだらかだった。目の前遠くに前穂や北穂の鋭い峰を見やりながら歩いて行った。
(大喰岳からの槍ヶ岳)
(大喰岳からの中岳・南岳へ)

中岳山頂でも素晴らしい展望を楽しみながら一休みした。
(中岳からの槍ヶ岳)
(天狗原)

中岳山頂からは南岳と北穂岳の間に大キレットの落ち込みも確認できるようになってきて、少し緊張も増してきた。
(中岳から南岳・涸沢岳・北穂岳を望む)

ガラガラの道を大きく下って行くと、左眼下に点々と雪渓が残る天狗原が見渡すことが出来た。どれが天狗池なんだと考えたが何かの蔭になっているかよく分らなかった。
南岳の間の鞍部には、尾根の真ん中を岩のピークが遮っていて、これを乗越えるのが今日初めてのスリルだった。ピークの先には天狗原からの合流点があり、槍ヶ岳をパスした場合はここへ上がってきたのだと合点した。
南岳からはまた大展望、東には槍ヶ岳と前穂岳の間に表銀座の山並みが連なり、その向こう遥かにに南アルプス、富士山、八ケ岳、美ヶ原、浅間山などが見えていた。西にも笠ヶ岳や白山が見えていたと思うが何故か写真は残っていない。展望を楽しみながら一休み。
(途中の岩場)
(南岳山頂にて)

(南岳手前からの東方パノラマ)

南岳から南岳小屋になだらかに下って、これから始まる大キレット下りのために安全装備を取り付けた。いつもは優しい顔の女性群も、完全装備した姿はなかなか勇ましく見えた。リーダに装備の点検をしてもらい、小屋の中で水を補給させてもらってから歩き始めた。
(南岳小屋へ下る)
(完全装備した美女達)

小屋のすぐ近くに獅子鼻岩という大キレット展望台があったので出発前に一人立ち寄ってみた。下りの岩場は手前の岩稜に隠れていて見えないが、見えている険しい岩稜で岩場下りの厳しさが推しはかられた。その向こうに両側が鋭角に切れ落ちた痩せ尾根の稜線上にルートがはっきりと見え、尾根歩きも厳しそうだ。長谷川ピークを越えた向こうには、北穂高岳に登るゴツゴツした岩壁が屹立していた。あの岩場をどこから取りつくのだろう。
(大キレット展望台から)

右側からすぐに石が重なる急坂の下りが始まった。ザレた所もあって足を滑らさないよう気を付けながらゆっくりと下って行った。
やがて下り坂は崖になり、梯子や鎖が出てきた。険しい岩場だが、皆さん今までの経験で肝が据わっている。落石を起こさないように気を付けながら、渋滞することもなく通過した。
(いよいよ大キレットの始まり)
(鎖もある崖下り)

(まだまだ続きます)
(長い梯子もありました)

最後の梯子を下るとしばらく稜線歩きになったが、両側が切れ落ちた痩せ尾根なので踏み外して落ちたらお終いだ。ところどころ小さなピークを越えたり、左右の斜面に追い出されるところもあって、それなりに気を遣いながら歩いて行った。
それでも長谷川ピークに上がるまでは、大キレットの中では楽な所だったのだ。何組かのグループに追い越されながらゆっくりと下って行ったが、中には小学生らしい小さな女の子を連れた若い女性もいた。女の子は厳しい岩場にひるむ様子もなく、女性にぴったりくっついて下りて行った。驚いた少女クライマーもいるものだ。
(しばらく稜線歩き)
(長谷川ピークへの登り)

長谷川ピークに登り着くと、先行していた女性群だけがリーダなしでお休みしている。リーダとサブリーダが、長谷川ピークの稜線に補助ロープを張っていたのだった。
ピークからは馬の背と呼ばれる岩が鋭角に切り立った稜線を歩くことになる。右に左に渡りながら稜線近くを這うようにに歩いて行く。左の信濃側は草付きだが右の飛騨側は1000m下まで何もない切り立った崖だ。太い鎖が付いていたり、鉄板の足場が付けてあったりするが、下を見ると身が硬くなる。補助ロープにカナビラを取り付けてみんなの後を付いて行った。
(長谷川ピークには仮設ロープも)
(飛騨側へ気持ち悪い下り)

補助ロープは回収しなければならない。サブリーダが最後尾に回ってロープを手繰りながら下りてくる。下ってくる人を前から見ていると一層怖い思いがする。
長谷川ピークの先にも一つ小さなピークがあり、ここから足場の悪いところを鎖を使ってA沢のコルに下って、怖い下りはやっと終りになった。
(仮設ロープを回収するサブリーダ)
(長谷川ピークの先にも一つのピーク)

A沢のコルから振り返ると、長谷川ピークが高く聳えていた。獅子鼻岩の展望台から見下ろした時には、長谷川ピークは何でもない小さなコブにしか見えなかったが、通過した後ここから見上げると、確かに険しい大きな岩山だった。
(長谷川ピークと南岳を振り返る)

A沢のコルでゆっくりと休んで英気を養ってから北穂高への登りにかかった。飛騨泣きの難所は聞いてはいたが、登りでも泣きたくなりそうな難所が続いた。登りでも大変なのに、これを下ってくる逆コースでなくてよかったと心底思った。
若い女性二人連れが下ってきたが、こんなところを二人だけでよく下って来られるものだ。そう言えばあの少女クライマーもここを登って行ったのだ。負けてはおれない。頑張ろう。
(北穂高岳への厳しい登り返し:飛騨泣きの難所)

崖を何段か登ると北穂高の西壁、滝谷の大岩壁を眼前に見る場所に出る。ガスで霞み加減だったが、「こんなところを登る人もいるのかねえ」と呆れながら眺めるだけだった。
次には絶壁をトラバースする所に出た。水平道と言っても岩を巻いたり乗り越えたりしながら歩くので結構疲れる。それも間違えたら千尋の谷底に滑り落ちるところなので、神経も使ってくたくたになる。
(滝谷展望台)
(トラバースもあり)

トラバースを過ぎると、北穂高小屋までキツイ登りが続いた。足がかりも手がかりも小さくて、ここも下りは御免だなと思いながら登ていった。山小屋が見え始めると、横尾で別れたFkさんが手を振っているのが見えていて、励まされながら登り切った。
テラスで休んでいた見知らぬ人達が、大キレット完歩を祝って拍手で迎えてくれた。涙もろい女性達は感激で涙ぐんでいた。
(梯子も鎖もあり)
(もうすぐ北穂高小屋です)

北穂高小屋は北穂高岳山頂間近標高3100m、日本一高いところにある山小屋だ。小屋前からも表銀座の峰々が同じ高さに見える。
今日はガスが上がってきて視界が利かなくなったので、北穂高岳に登るのは明日回しになったが、明日もどうなるか判らないと思ってOzさんと二人ですぐ上の北峰山頂まで登ってみた。ガスは晴れなかったが、大天井岳から常念岳、蝶ヶ岳辺りまで展望することが出来た。
小屋に下りて前庭のテラスで大キレットを歩き切った感激を話し合ったが、明日からの話になると、まだまだ先に難所が待ちうけているらしい。それはさて置き、先ずは最大の難関、大キレットを制覇したのだ。嬉しさで興奮して夜も眠りが浅かった。
夜中、隣室から聞こえてきた会話。「ヘルメットをかぶった集団がいたけど、滝谷をやるのかねえ」「いやあ、見たところみんな年配に見えたから滝谷は無理じゃあないの。年配者は一人、二人じゃなくてみんなだったもの」。日本ではカナダやヨーロッパと違って、ヘルメットを付けて山歩きをするのはまだ一般的ではないのだ。
(北穂高岳山頂にて)
(小屋前のテラスで歓談)





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