Y822.不帰のキレットと白馬三山縦走2日目
(唐松岳から天狗山荘まで)

1.概 要
今日2日目は、今回山行の核心部、不帰の嶮(不帰のキレット)を通過する日である。難所を通るからとコースも唐松頂上小屋から天狗山荘まで5.9kmと短く設定されており、参加者一同が去年大キレットを通過した経験もあるので心配はない。みんな初めて歩く不帰のキレットに戦々恐々と興味津々のごっちゃ混ぜだったが、平野リーダの巧みな足場選定とペース配分とで全員無事歩き通すことができた。

2.データ
a)山域:唐松岳(2925m),不帰の嶮U峰(2956m),不帰の嶮T峰(2931m),天狗の頭(2858m)
b)登山日:2011/8/8(月)
c)コースタイム:
唐松岳頂上山荘 6:10 ---- 6:30 唐松岳 6:40 ---- 6:55 V峰巻始め ---- 7:25 U峰南峰 7:45 ---- 8:05 U峰北峰 8;15 ---- 9:00 鞍部 9:30 ---- 9:45 T峰 9:50 ---- 10;20 最低鞍部 10:35 ---- 10:40 不帰のキレット ---- 11:05 鎖場下 11:25 ---- 11:55 天狗の大下り上端 12:20 ---- 13:10 天狗の頭 ---- 13:40 天狗山荘(泊)
(不帰のキレット縦走コース)

(不帰のキレット縦走コースの標高差)

3.山行記録
朝起きると夜中降っていた雨も止んで、ガスは濃いが空には青空も覗いている。雨が降らないうちにキレットを通過しようと朝食もそこそこ、準備運動をして歩き始めた。
小屋を出てすぐの登山道脇の砂地にコマクサが咲いている。山荘の人が手入れしているのだろうが、結構賑やかに咲いている。みんな立ち止まって盛んにシャッタを押している。
(山荘前で準備運動)
(コマクサ)

コマクサの群生地を過ぎても、ゴゼンタチバナやアキノキリンソウなどが咲くガレ場のジグザグの登山道を登って行った。
山頂についても周りは濃いガスに囲まれて視界はゼロ、これから歩く不帰のキレットをじっくりと確認してから出発したいところだが、めいめいの記念写真と集合写真を撮ってキレットに向かった。
(ガレた登山道)
(唐松岳山頂)

下りに一歩踏み出すと、南東方向のガスがかすかに晴れて立山から剣にかけての山並みが姿を現した。気分を良くしてガラガラの斜面をジグザグに下って行くと時々剱が姿を現してくれて嬉しい。
(雲間に立山、剱岳が)
(唐松岳を下る)

唐松岳からの下りにも岩場をトラバースする所もあって結構緊張させられたが、鞍部まで下り切って瘠せ尾根を辿ると、目の前にぼんやりと岩山が見える。この岩山に登っていよいよ不帰の嶮の始まりかと思ったが、リーダは左に下るガレ場に下って行った。私の前を歩くお元気な福地さんは「V峰には登らなくてもいいのかな」と少し残念そう。
第V峰は右側(信州側)がスパッと切れ落ちているが、左側(黒部側)の斜面は余り急ではなく、ガスで下が見えない事もあってそれほど怖い思いをしないで歩くことができた。
(目の前に不帰の嶮V峰)
(V峰を左に巻く)

トラバース気味に下って行くとまたまた岩山が目の前に現れ(V峰には3つのピークがある)、これも左に巻いて下って行った。
鞍部まで下って振り返るとV峰の信州側が垂直にスパッと切り立っているのが見えて、これではV峰の稜線を歩くのは危険極まりないことだと合点した。
(また行く手の岩頭を巻く)
(V峰の信州側)

最後の岩頭も巻いて下ると平坦な鞍部になり、次のU峰への登りになる。
U峰への登りはザレ場、ガレ場のジグザグ登りになる。この頃から青空がでて陽もさすようになって、振り返るとV峰の岩壁が見られるようになった。
(鞍部へ下る)
(U峰へ登り返し)

U峰に登り切ると「ここは不帰U峰の南峰」の立札が立っており、振り返ると唐松岳からV峰にかけての信州側の絶壁がすっきりと見えていた。唐松岳の山頂には鈴なりの登山者の姿が見えるが、こっちに下って来る人は少ないのだろう。
ここにいる間に、北峰からやって来るグループに二組出合った。やはり不帰のキレットは白馬側からT峰、U峰、V峰と通過する人の方が多いようだ。
(来し方の唐松岳と不帰の嶮V峰)

行く手を見ると、目の前にU峰北峰とT峰が見え、その間に大きく切れ込んだキレットがあることが良く分り、いよいよ来たなと緊張する。その先にあるはずの天狗の大下りの斜面はガスに隠れて見えていない。もし見えていたら、難所をこなした後にも物凄い登りが待っていることがみんなの元気を失わせていたかもしれない。U峰への稜線も長い瘠せ尾根の連続で、うっかり転んだりしたら命がないなと気持が引き締まってきた。
(行く手のU峰とT峰北峰、天狗の大下りは雲の中)

U峰南峰は広場のようになっていてここで装束改めになった。永井リーダの厳命で全員ヘルメットとハーネス、スリング、カナビラを携行している。不帰のキレットの核心部はU峰の北峰の下りである。安全器具を取り付けて気持を引き締めてU峰北峰に向かって歩き始める。
(U峰南峰で装束改め)

遠目には平らに見えた北峰への稜線にも、実際に歩くと細かい岩場の上り下りがあって、左右の深い谷間も見えて来たので緊張しながら歩いて行った。
(U峰の稜線歩き)

北峰の取り付き点まで進むと、なかなかの急登になっていた。ガレた急坂をゆっくりと登る。山頂部で渋滞しているのでゆっくりとならざるを得ない。
(U峰北峰へ急登)

北峰の頂上に登り着くと、大岩に「ここは不帰U峰の北峰」の名札が取り付けられていた。その岩には鎖も取り付けられていて、鎖で安全を確保しながらこの大岩の向こうに回り込む。回り込むと切り立った断崖の上、落ちたら命がない。カナビラで確保しながら横断した。
大岩の背面を横切ると、今度は岩棚を下る。鎖はないが三点確保で注意深く下る。浮き石もあるので、落石にも細心の注意が必要だ。
(山頂部で回り込み)
(トラバースの後急降下:対向者あり)

今度はトラバース気味に下る長い鎖場、足元の岩が滑りそうで気持が悪い。
こんな難所でも、向かいからやって来る登山者に出合うことが多く、お互い気持よく道を譲り合うのだが、場所の選定が結構難しい。17人もの通過を待つのはさぞやいらつくことだろうと申し訳なく思いながら「有難う」と声を掛けながら交差する。
(長い鎖場)
(交差もあり)

鎖にない岩場を大下りをした後は垂直の絶壁に出来た水平な狭い道を辿る。足元が狭くて気持が悪いので渋滞気味、岩棚に咲いているミネウスユキソウ、イワギキョウ、ダイモンジソウ、シラネニンジン、アキノキリンソウ等の写真がしっかりと撮れた。
(絶壁をへつる)

絶壁の先には珍しく小広い平らな所があって一息入れることができた。
その先に小さな階段があり、また鎖のない岩場の下りになり、三点確保でゆっくりと下った。
(一寸した休み場)
(大岩の下を回る)

こんな急斜面の連続なのに、目の前に岩頭が現れて面喰らう。どうやって通過するのかと心配したが、この岩頭には右に巻いて崖をへつって通過するようになっていた。。
(尾根向かいに岩頭)
(岩頭を巻いて)

岩頭をへつって裏に回ると岩壁がきれたところがあり、その間を鉄の梯子を渡してあった。梯子の上から下を見ると梯子の下には何もない。空中梯子だ。手摺のために一本鎖を渡してあるが、ぶらぶらしていてあまり頼りになりそうになくて気持が悪い。
空中梯子の先が、また先が見えない岩を回り込むようになっていて、気持悪くてここも渋滞場所。回り込むとその先は垂直に下る鎖場になっていた。
(断裂部を梯子で渡り)
(最後の鎖場へ)

長い鎖場を下ってU峰とT峰の間の鞍部に下り立って、やっと難関不帰のキレットの核心部が終りになった。
ここを下る皆さんの写真を上から撮っていたら、下で待つ仲間から「写真など撮ってんじゃないよ!」と大声が飛んできた。17名が下って来るのをずっと待っていた2人の登山者がしびれを切らしていらいらしている様子を見て、いたたまれなくなって思わず大声になったもの。写真を撮っているから時間がかかっている訳ではないが、待っている人の気持ちは充分分かる。グループの最後に下り着いて「お待たせしました」と丁重にお詫びを申し上げた。
(長い垂直鎖)
(やっと鞍部に下り着く)

鞍部まで下って一休み、振り返ると今下って来たばかりのU峰北峰が聳えており、お待ちになっていた二人が鎖場を登って行くところだった。
このU峰をバックに集合写真を撮りたかったが、私のカメラではメンバに移動してもらわないとU峰の全体像が入り切らないのであきらめた。
向かいにはT峰が立ちはだかっているが、岩場はなくて傾斜は緩くU峰ほどの苦労はなさそうだ。
(U峰北峰を振り返る)
(T峰)

ジグザグに登ってT峰の山頂に上がったころ、またガスが濃くなってきた。U峰は見えなくなって難関をバックにしての集合写真は撮れなかったが、ここで不帰のキレットを通過した満足感いっぱいの集合写真を撮った。
(T峰への登り)
(T峰頂上でバンザーイ)

T峰からはハイマツの中をだらだらと下る道が続き、後ろにU峰、V峰も見えるようになってきて集合写真の撮り直しもした。
(T峰からの下り、後ろにU峰北峰南峰とV峰)

T峰を下るとガラガラのガレ場になり、下り切ったところが2411mの最低鞍部である。ここでゆっくりとお休みした。
最低鞍部から信州側が切れ落ちたコブを登って行く。
(最低鞍部で一休み)
(少し登って)

このコブを下ったところの鞍部が一般的に呼ばれている不帰のキレットだろうか、信州側を覗きこむと雪渓の残る深い谷間が迫ってきていた。
不帰のキレットとか不帰に嶮とか入り乱れている。この山行記では一応T峰からV峰までを含めて不帰のキレットと呼ぶことにしたが、後から読み直すと混乱しているところがある。NETで調べると、一般的には、T峰からV峰までを不帰の嶮と呼び、不帰のキレットとはT峰と天狗の大下りの間の最低鞍部の少し大下り寄りを指しているいるようである。

不帰のキレットからいよいよ天狗の大下りの登りが始まる。ガレ場の急坂登りなので息が切れる。落石も心配で気を遣う。
(下った所が不帰のキレット?)
(天狗の大下りを登る)

天狗の大下りを登るのは体力だけかと思ったら、2ヶ所に鎖場があった。上から下ってくる逆コースの登山者とここで交差し、17名が通過するのを待たせるのが申し訳なくて先を譲ったが、鎖場を下るのは登るのよりも難しい。たっぷりと待たされて、待つ身のつらさを味あわせて貰った。
(大下りにも鎖場が2ヶ所あり)

ガレ場の登りには、トウヤクリンドウ、クロトウヒレン、コメツツジ、アキノキリンソウ、ハハコグサ、イワギキョウ、イワオウギ、イワツメクサなど色とりどりの花がさていて目を慰めてくれた。
足を停めて振り返ると、歩いてきた不帰の嶮T峰、U峰、V峰、唐松岳がすっきりと見えていた。
(天狗の大下りから振り返る、不帰の嶮T峰、U峰、V峰、唐松岳)

急登を登り切って小広場にでると「ここより天狗の大下り、落石注意」の立札が立っていた。天狗の大下りの急坂は登り切ったのだ。ゆっくりと休憩時間がとられた。
天狗の大下りを登り切ってしまえば、あとは大したことはないと思い込んでいたが、そのあともだらだらとした登りが続いて、なかなか天狗の頭のピークに着かない。
(急登を登り切って一休み)
(山頂はまだ先だった)

いくつかの凹凸があるごとに天狗の頭と思いこんでは騙され、コマクサやタカネツメクサ、ムカゴトラノオ、イワギキョウ、アキノキリンソウなど愛でながら登っているうちに、雨が降り出した。暑いが雨具をつける。
(断崖の上の登る)
(途中で雨)

雨具を着てから10分ほどで、天狗の頭の道標の立つ所に登り着いた。お天気が良ければ展望のいいところだろうが、今日は何も見えない。証拠写真だけ撮って通過した。
天狗の頭を通過しても、まだまだいくつもの凹凸が繰り返され、コマクサやタカネシオガマ、イワオウギなど愛でながら歩いて行った。
(天狗の頭)
(山荘まで長かった下り)

高山植物保護のためのロープが張られたところまで来ると、右下に天狗山荘の黒い建物が見えて来た。小屋に向かって緩やかに下って行くと、ウサギギクやヨツバシオガマ、ミヤマダイコンソウ、はてはウルップソウまで見られるようになってきた。
山荘に到着すると、山荘前に水場があり、雪渓から流れて来るらしい冷たい水がとり放題、ビールやジュースも冷やしてあった。水場のある山小屋は嬉しい。
(やっと天狗山荘到着)
(山荘の水場)

小屋に到着すると、すぐにビールで乾杯!皆川さんに勧められてビールにウイスキーを足してみると、すっきりとしたなかなかいける味になった。
小屋の食堂に入って、正式な乾杯。ウイスキー加算のビールをもう一杯飲んだらすっかり出来上がってしまった。
(一回目の乾杯)
(二回目の乾杯)

乾杯が済んで外に出ると、空は晴れ渡り、明日登る鑓ヶ岳が白い山容をあらわにし、その右には火打山から妙高山、高妻山の山並みも見えていた。
(お日さまも出て来た)
(火打、妙高、高妻連山)

天狗山荘名物の鍋ものの夕食を美味しく頂いて、空いていてゆったりの寝床こにもぐりこんだ。元気のいい仲間は宿の主人の勧めに従って日没を眺めに、下ってきた尾根まで登り返して行ったが、すっかり出来上がってしまった私は、夕日は前回の中央アルプスでたっぷり楽しんだと言い訳しながら寝床にもぐりこんでいた。





inserted by FC2 system