W92.ヌクビ沢から巻機山へ

1.動 機
以前は遠かった巻機山だが、北関東道がほぼ全線開通になって身近な山と思えるようになった。今年になって登山計画を立てて登る日を狙っていたが、天候不順や他の所用が重ったりでなかなか実行できないでいた。秋の連休の一日、絶好の天気予報が流れたので、思い切って出かけることにした。
花の時期はとっくに過ぎ、紅葉には少し早いだろうと思ったので、コースの変化を楽しもうと少しきつそうだが割引沢からヌクビ沢コースを登ることにした。登りの沢コースは後半の急登が辛かったが、行者の滝までの前半は期待通りに変化があって面白く、山頂近くは思いがけず紅葉が進んでいて美しく、割引岳山頂からの360°の大展望も素晴らしく、満足いっぱいの巻機山だった。ところが、いい気分になって下り始めた井戸尾根コースは、どこまで下っても終わりのない長い長い足場の悪い急坂の下りが続いてすっかり疲れ果てたのでした。



2.データ
a)山域:割引岳(1931m)、巻機山(1967m)
b)登山日:2009/09/21(月)晴
c)コースタイム:
前夜アクセス(9/20):日立自宅15:00 = 15:10日立南IC = 16:25佐野藤岡IC =(R50)= 17:05太田桐生IC = 18:55 塩沢石打SA(車中泊)
(9/21):塩沢石内IC 5:10 = 5:45 桜坂駐車場 6:00 ---- 6:15 0引き返し点 ---- 6:20 塩沢山岳会 6:30 ---- 6:50 割引沢分岐 ---- 7:10 吹上滝 ---- 7:30 アイガメノ滝 ---- 7:55 ヌクビ沢出合 ---- 8:35 行者の滝 ---- 10:55 ヌクビ沢源頭 11:05 ---- 11:25 稜線 ---- 11:35 割引岳 12:00 ---- 12:20 御機屋(昼食) 12:50 ---- 13:00 巻機山 13:05 ---- 13:15 御機屋 ---- 13:35 避難小屋 ---- 13:45 ニセ巻機 ---- 14:00 八合目 ---- 14:55 六合目展望台 15:00 ---- 16:10 三合目 ---- 16:25 桜坂駐車場
帰途:桜坂駐車場 16:40 = 17:05 塩沢石内IC = 17:10 塩沢石内SA 17:30 = 19:25 太田桐生IC =(R50)= 19:40 桐生(夕食)20:35 =(R50)= 20:50 佐野藤岡IC = 22:00 日立南IC = 22:10日立自宅
d)同行者:和子
e)地形図:1/25000 「巻機山」

3.山行記録
(前日:アクセス)
塩沢石内SAのスナック閉店時間の20時に間に合うように、連休渋滞も考慮して15時に我が家を出発した。危惧した高速道の渋滞もなく、4時間でSAに到着し、小さなスナックで夕食を頂いてから、車の中でゆっくりと眠った。30台ほどの車がいたが、大型車の少ない静かな夜だった。

(当日:山行)
朝4時半に起床し、お湯だけ沸かして簡単な朝食を取って、5時過ぎにSA直結のICを出て巻機山登山口に向かい、県道28、R291を走った。民宿の清水集落を過ぎて細い道を走っていき二つ目の駐車場の料金所を過ぎるとトイレがあり、その先の橋を渡ったところに最終の駐車場が見えた。駐車場が満杯だったので橋の手前の路側に駐車した。
身支度を整えて駐車場を通ったところが登山口で、登山計画書のポストがあった。計画書を出して登山道を進むとすぐに「井戸尾根コース」と「ヌクビ沢・天狗尾根コース」との分岐表示があり、左に曲ってヌクビ沢コースへと向かった。丈の高い草がうるさい小道を歩いていくと左に山小屋風の家が数軒現れた。
しばらくぬかるんだ登山道を歩いてから地形図をみると、割引沢への破線の道はもっと手前で分かれている。引き返して分岐点から沢側に入ると塩沢山岳会の山荘があり、道はその奥に伸びていた。だがその道はすぐに沢で断ち切られ、谷に下ったり沢を渡ったりしたが踏跡は見つからなかった。単独行の青年も現れて一緒に検討したが、結局もとの道に戻ることになった。
(桜坂駐車場は満杯)
(破線の道に塩沢山岳会・奥に天狗岩)

沢歩きをあきらめた気分で引き返した点まで戻り、しばらく樹林の中を歩くと「ヌクビ沢・割引沢へ」と「避難道」の分岐標柱があった。地形図の破線の道は間違っていたわけで、これで割引沢を歩けることになったと喜んで、左の割引沢に向かって下って行った。
急坂を下ると直ぐに大石がゴロゴロと転がる割引沢に出た。早速大石を乗り越えながら上流に向かうとすぐに右岸へ飛び渡った。
沢の右岸添いを大石や倒木を超えたりロープを頼りに高巻いたりしながら登っていくと、目の前に吹上の滝が現われた。
(割引沢に降りる)
(吹上の滝)

吹上の滝からは小さな滝をクサリを頼りに滑り落ちないように登ったりしながらかなりの標高差を登ると、登山道から眼下にアイガメの滝が見えてきた。その上には天狗岩が頭を出していた。
アイガメの滝は、全体としてとてつもなく大きななだらかな大きな岩場で、なかなかの絶景だった。右岸の岩場や草付きを登山者が登っているのが見えていた。
(アイガメノ滝展望・)

登山道を滝の手前の沢に下ると、滝の右岸を登るルートがつけられており、滑やすそうな岩の斜面をトラバースするように登っていった。
岩の斜面を通過して「アイガメの滝」の滝壺下に到着。急流が水を滑るように流れ落ちる脇の急坂を、草・岩にしがみ付いて急坂を登った。水流が冷たいようで、周りの風が涼しくて気持ちがよかった。
(アイガメの滝・岩場トラバース)
(アイガメの滝・草付きの巻道)

大きなアイガメの滝を登りきって薮を抜けるとまた沢に降り立った。相変わらず大きな石が重なる沢で、正面に天狗岩を見ながら沢を左や右に渡リ返しながら登っていった。
(どこから渡ろうか)
(岩乗り越え)

やがて沢は二股に分かれるヌクビ沢の出合についた。左に登ると天狗尾根コース、右の沢に入るとクヌビ沢コースである。天狗尾根ルートは超難コースらしいので迷わず右のヌクビ沢に入った。
(ヌクビ沢付近から天狗岩)

ヌクビ沢に入ってから少し高巻いて沢に下りると間もなく大きな一枚岩の布干岩が現われた。一枚岩の左岸に鎖がつけられているが、岩の表面は乾いていてザラザラで滑らないので、鎖は使わないでゆっくりと登って行った。面白い岩場だった。
布干岩を登りきると、また両岸の斜面をへつったり、大石の間を縫ったり石を飛び越えての徒渉をしたりの沢登りが続いた。しばらく岩と格闘していると正面に20メートルほどの落差をもつ立派な行者の滝が現われた。滝の流れの右の岩場に鎖がつけられており、この岩場をがんばって登った。疲れる岩場だった。
(布干岩)
(行者の滝)

行者の滝を登りきると、それから先は天狗岩の真下で両岸の逼った沢になり、はじめその右岸の急な草付きを登った。しばらく草付を登るとそこは沢の左岸の高巻に付けられた道があり、足場が狭い岩場で高度感があって緊張する場所だった。しばらく登ると雨宿りもできそうな庇が出っ張った変わった岩場もあった。
沢に降りたりまた岸に上がったりを繰り返し、向こうに稜線が見えてきたのでもうこれで沢は最後だろうと思って頑張ると、沢の曲がりの向こうにはまたまた沢が現れる。こんなことを繰り返した長い長い沢登りだった。
(高巻)
(どこまでも続くヌクビ沢)

徒渉や高巻を繰り返す気の抜けないコースだが、途中にはダイモンジソウやトリカブト、モミジカラマツ、サラシナショウマなどの花が咲き残っていて、シャッタも押さなければならなかった。
(ダイモンジソウ)
(トリカブト)

ヌクビ沢の源頭部まで登りつめると、左岸の急な斜面にある踏跡に取り付いた。岩場や草付きはまだいいが、崩れ易く手がかりも少ないザレの急斜面もあり、とても高度感があって緊張した。
振り向くと谷川あたりらしき山並が見えるが、地図を出して確認するゆとりはなく、シャッタを押しただけで通過した。
(源頭からは岩場や草付きの急登)

そして幾分なだらかになったあとは割引岳と巻機山の鞍部で、先に登りついたグループが絶景を見ながら歓声を上げていた。右手に巻機山への登山道が伸び、一面の原は草紅葉が始まっていて、牛ヶ岳の笹原の濃い緑とのコントラストがとても奇麗だった。そして向かいの眼下には魚沼コシヒカリの実りの田園地帯が広がり、八海山から越後駒、中ノ岳の山並みが雄大に広がっていた。
時間もゆとりがあったので左手の割引岳に寄り道することにした。10分足らずで山頂に登りつくと展望はまさに360°! お休み中だった天狗尾根を登ってきたと言う男性に、周りの山々の名前を教わった。
(尾根から巻機の草紅葉展望)
(割引岳山頂)

東方向には濃い緑の「牛ヶ岳」、色づき始めた「巻機山」と「御機屋」、下りルートの「前巻機山」、その上に遠く武尊岳が見えた。
(割引岳から東方展望:正面に巻機山、左に牛ヶ岳、右にニセ巻機、遠くに武尊山)

南方には巻機山−ニセ巻機の稜線の先に、朝日岳、谷川岳、万太郎山、仙ノ倉山、佐武流山、苗場山など並んでいた。谷川岳の左の雲海にポツンと頭を出した山があり、「富士山だと思うが少し近くに見えすぎる」と男性は悩んでいた。
(割引岳から南方展望:武尊岳、朝日岳、谷川岳、万太郎山、仙ノ倉山、佐武流山)

北東に八海山から越後駒、中ノ岳の山並み、荒沢岳も頭を出していた。。
(割引岳から北東展望:八海山、越後駒ヶ岳、中ノ岳、荒沢岳)

北の日本海方向には金色に光る越後コシヒカリの穀倉地帯が広がり、その向こうに見えるのが米山さんだという。男性の家の近くで、日帰りに登るのに手頃な良い山だとお薦めだった。
(割引岳から北西展望:黒姫山・米山、越後穀倉地帯、金城山)

割引岳山頂で記念写真の撮り合いをして次に向かった。気持のいい尾根歩きの道傍にはイワショウブや、オヤマリンドウ、タテヤマリンドウなど咲き残っていたが、花の最盛期には見事な花園になるのだろう。
(イワショウブ)
(オヤマリンドウ)

割引岳から鞍部に引き返しさらに10分も登ると多くの登山者がくつろいでいるピークに出た。巻機山山頂(1967メートル)という標識があるが、ここは御機屋、最高点はここから牛ヶ岳に10分ほど歩かなければならない。巻機山は信仰の山で、信仰上ではここが山頂になっているらしい。
ベンチに座って昼食を取り、記念写真を撮ってから本当の巻機山(最高点)に向かった。山頂部はロープが張られて立入禁止、登山道脇に作られたケルンの前で証拠写真を撮った。
(御機屋にある山頂標柱)
(山頂のケルン)

山頂の東側からは、割引岳からは見えなかった東方面の燧岳や至仏山の尾瀬の山々が見えていた。すぐ先の牛ヶ岳の丸い山頂に数人の登山者の姿も見えて、ここにも寄り道したい誘惑もあったが、往復1時間はかかって下山が暗くなりそうなので諦めた。
(巻機山から東方展望:燧ヶ岳、至物仏山、奥白根山、)

御機屋に引き返す道すがら、気付いてみると道傍にある二つの池塘が真っ青な空を映して美しかった。
真っ赤に色付いたナナカマドの葉の向こうに、草紅葉のニセ巻機の構図も絵になった。
(池塘)
(ニセ巻機山)
(朝日岳・大源太山、谷川岳・万太郎山)

御機屋に戻ってすぐに下山にかかった。稜線上の下山道の先に小さな池塘と避難小屋が見えていた。下りながら振り返ると、巻機山の斜面の草紅葉が午後の陽を受けて奇麗だった。
(下山開始)
(草紅葉を振り返る)

鞍部に建つ避難小屋は真新しく内部もきれいだった。室内のトイレはバイオらしく清潔そうだったが、靴を脱ぐのが面倒で外の臭いトイレで用を足した。ここの水場を当てにしていたのだが、小屋の周りには水場の表示が見つからず、あとはぎりぎりの水で我慢の下山になった。
避難小屋からニセ巻機までの登りが下山を始めてから初めてで最後の登りだった。わずか50m落差の登りだったが、沢登りで体力を使い果たした体にはきつかった。割引岳から巻機山の山並みを振り返る名目で何度も立ち止まっては休憩した。
登りついたニセ巻機の山頂には、「ニセ巻機山」と「九合目」の標柱が立っていた。ここから登山口まで九合目からニ合目までの標柱が立っていたが、いつもは励みになるこの距離標が、今回は次の標柱がなかなか現れず、その間隔がとっても長く感じられて助けにならなかった。
(ニセ巻機への上り返し)
(ニセ巻機山頂)

八合目まではなだらかな整備された道で歩きやすかったが、八合目から下は石ころだらけの道になり、斜度も急になってきて疲れた足にはきつかった。
(八合目まではなだらかな道)
(八合目からはガラガラの急坂)

なんとか六合目の展望台まで下ると、目の前に割引岳が望め、その下の天狗岩の手前を急降下するヌクビ沢が見えていた。「あそこを登ったのだなあ」と感慨深く眺めていたら、休憩中だった土地の男性が、「今朝ヌクビ沢を登ってもう下っているの。普通避難小屋泊だよ。元気だねえ」と煽てられて少しいい気分になり、これからまだ半分残っている下りにかかる元気をもらった。
(六合目展望台から天狗岩、割引岳とヌクビ沢)

ブナの幼木の樹林帯を気持ちよく下って五合目の展望台につくと東側の展望が開け、米子頭山の稜線から滝が何本も延びているのが見えた。これから先三合目までがとても時間がかかったが、三合目から駐車場までは20分足らず、隋分と近かった。一合の目安は何なのだろうか。

(帰途)
駐車場に戻って靴を履き替えて走り出すと、料金所のところにおじさんが待ち受けていて500円の駐車料金を徴収された。料金所から奥は道路を含めて全部有料駐車場のようだった。
塩沢石打ICで高速に乗り、塩沢石打SAで冷たいコーラを飲み、洗面所で体を拭いてすっきりとした気分で帰りの運転に向かった。関越道は連休のETC割引で大渋滞だったが、身体は疲れていても、思ったよりも充実した面白い山行だったので気分よく運転することができた。途中、R50沿いのレストランでいただいた夕食も美味しかった。




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